グノーシス主義(ぐのーしすしゅぎ)
「グノーシス主義」は、宗教というよりは、一種の思想運動です。紀元1世紀から2世紀にかけて盛んになり、3世紀には衰微していきました。その内容は多様ですが、おおよそ以下のような点が確認されています。
(1)グノーシスとは、「知識」、「認識」などを意味するギリシヤ語です。グノーシス主義は、人間はある「霊知」(グノーシス)を持つことによって救済されると教えました。そしてその「霊知」をもたらすのがキリストだというのです。
(2)グノーシス主義は、徹底した霊肉二元論の立場を取りました。そして、霊は純粋で神秘なもの、肉(物質)は罪悪性を持ち堕落したものであるとしました。このような立場に立つグノーシス主義は、聖書の創造論とは真っ向からぶつかるものでした。グノーシス主義によれば、世界を創造したのは絶対者としての神ではなく、より下級の造物者であり、そのため物質界は罪悪性を持っているとされました。また、人間が罪ある者である理由は、肉体を持っているからであるとも教えられました。
(3)当然の帰結として、グノーシス主義は、聖書の重要な教理をいくつも否定することになりました。絶対者である唯一の神が万物の創造者であるという教理の否定、イエス・キリストは受肉した神の御子であるという教理の否定、人間は恵みと信仰によって救われるという教理の否定。
(4)グノーシス主義は、肉体のみを罪悪視したため、内面にある罪の問題を考えることができませんでした。その教えは、禁欲的、戒律的なものとなると同時に、霊の神秘性を強調したために密儀宗教の性質を持つようにもなりました。これは、福音とは全く異質の教えです。
出典:クレイ聖書解説コレクション「ピリピ人への手紙、コロサイ人への手紙」