レシピ16 「マスタープラン」の法則

マスタープランとは「基本計画」、「基本設計」という意味です。
規模の大小にかかわらず、マスタープランなしではプロジェクトの成功を期待することはできません。人生もそれと同じで、若い時からマスタープランを持った人は試練に打ち勝ち、祝福された人生を生きることができるようになります。それはまた、成功への戦略ともなります。ここでいう成功とは、必ずしも裕福になったり、有名になったりすることではありません。「心の平安」を持っている人こそ、人生の成功者と言えるでしょう。

未知の分野に足を踏み入れる時は、経験者から話を聞くと非常に参考になります。「生きる」ということについても、それと同じことが言えます。年長者から体験談を聞いたり、先輩たちが書いた本を読んだりすることで、人生への取り組みの姿勢が正されます。10代の時に何を為し、20代の時に何を為すべきかなど、各年代において経験しておかねばならないことも整理されます。このような準備は、青年時代に完了していることが望ましいのですが、どの世代の人であっても決して遅すぎることはありません。気がついた時に、自らの人生のマスタープランを考えればよいのです。

「80歳まで現役」を決意せよ

今あなたが何歳であっても、「80歳まで現役」を決意しましょう。その先も働けるなら、それは「おまけ」であり祝福だと考えましょう。80歳に目標を設定したとたんに、不思議な力が湧いてきます。「もう年だから」とは言わなくなります。目標を持って生きている人は、老け込むことがありません。「定年が楽しみだ。そうなったら毎日ソファーに寝そべって、テレビを何時間でも見てやる」などと考えている人は、先が長くありません。実際に定年生活に入ると、そういう人は短時間の内に死んでしまうでしょう。肉体的には生存していても、その人の精神生活は間違いなく活動を停止するという意味です。定年は、活動を停止する時ではなく、むしろ人生の総仕上げの段階に突入する時なのです。

人生には3度のピークがあることを認識せよ

人生には3度のピークがやってきます。あるいは、3種類のピークと呼んでもいいでしょう。
最初に来るのが、体力面でのピークです。個人差はありますが、普通は10代後半から20代半ばにかけて、このピークがやって来ます。外観重視、見かけ重視の現代の風潮からすると、「若いことはいいことだ」、「若くなければ価値がない」ということになります。
肉体が商売道具となっているスポーツ選手は大変だと思います。現役の期間が短いスポーツと言えば、相撲が思い出されます。30代始めになると、すでにベテランです。引退して相撲協会に残るためには、「年寄株」が必要です。協会に残った力士は、それ以降名実ともに「年寄」と呼ばれます。
もし体力面でのピークが人生の最盛期であるなら、それを過ぎた人に残されているのは、人生の下り坂だけだということになります。肉体年齢にしか価値を置いていないなら、それ以降失意の人生を送ることになります。しかし、そうであってはなりません。その次にやって来るピークがあるからです。

第2のピークは、知的ピークです。あるいは、判断力のピークと呼んでもいいでしょう。これにも個人差がありますが、50代がこのピークではないでしょうか。体力、知力、経験のすべてが調和したところに、このピークがやって来ます。社会に大きな貢献ができるのが、この年齢です。と言っても、この年齢になれば自動的に判断力のピークが来ると考えてはなりません。それまでにマスタープランに基づいた積み重ねをしている人が、このピークを楽しみ、活用することができるのです。

第3のピークは、人格的ピークです。あるいは、霊的ピークと呼んでもいいでしょう。これは80歳以降にやって来るピークです。80歳と言えば、体力的にも知的にも衰えを実感する年齢です。しかし、その年齢になって初めて見えてくるものがあります。余計な力みや自我が消え、いわゆる「枯れた状態」になるのです。若い時のようなエネルギーはありませんが、年輪を重ねた巨木のような、ものに動じない姿が現われてきます。さらに、一時的なものといつまでも続くものとを見分けることができるようになります。
この状態になっても、人は成長することができます。人格の成長には限界というものがないからです。
80歳以降の日々は、人格の完成を目標に歩むものです。人生の夕暮れは、一般に考えられているような絶望の時ではありません。むしろ、人生で最高の喜びに溢れた日々なのです。

バイブルはこう教えています。

「あなたがたが年をとっても、わたしは同じようにする。あなたがたがしらがになっても、わたしは背負う。わたしはそうしてきたのだ。なお、わたしは運ぼう。わたしは背負って、救い出そう」

聖路加国際病院理事長の日野原重明氏は、今年(2007年)95歳になる現役医師です。もちろん、現役医師としては日本最高齢です。多忙な日々を送る日野原氏の姿に、多くの人が励ましと感銘を受けています。日野原氏は、あるインタビューに答えて、自らの人生について次のような話をしています。
氏の人生観は、1970年に「よど号ハイジャック事件」に巻き込まれたことによって180度変わったそうです。それまでは病弱なこともあって、60歳まで生きられたらそれでいいと考えていたそうだ。ところが、福岡の学会に出席するために乗った飛行機がハイジャックされ、4日目になってやっと韓国の金浦空港で解放されたのです。飛行機を降りた瞬間、日野原氏は自分の人生は60歳で終わるのではなく、これから始まるのだと確信したそうだ。
その頃、氏はユダヤ人哲学者マルチン・ブーバーのこの言葉に出会っていました。
「人は創(はじ)めることを忘れなければ、いつまでも若くある」
この言葉から刺激を受けた氏は、新しいことへの挑戦を続ければ、体は老いても心の若さは続くのだと確信したそうです。それから、氏の「挑戦の人生」が始まったことは衆知の事実です。

肉体のマネッジメント(管理)を実行せよ

人生のマスタープランを実行するためには、肉体のマネッジメントを意識して行なう必要があります。私の場合は、次の3点に注意しています。

1. 自然法則に従う。
栄養、運動、休息、この3点は基本中の基本です。これに注意して生活することは、自然法則に従うことです。どんなに注意していても、病気になることがあります。それは自分の努力の範囲外のことであり、その現実を受け入れるしか方法はありません。しかし、不摂生のために体調を崩すなら、それは防ぎ得たことであり、私たちの責任です。

2. 悪習慣を絶つ。
特に、酒、タバコ、お茶、コーヒーなどの嗜好品が問題です。適量の嗜好品は、精神的緊張を解く効果があるのでしょうが、それに支配されることは決してよい結果をもたらしません。

3. 歯の健康に注意する。
とっぴなことのように感じるかもしれませんが、健康な歯は肉体的健康の大元であることを知るべきです。10代の頃、私は歯の健康を軽く考えていました。その結果、虫歯を何本か作り、そこに被せ物をするようになりました。今のところ幸い、全部自分の歯が残っていますが、若い頃に歯を大切にしなかったことが悔やまれます。ですから今では、定期的に診断を受けています。

マスタープランのある人の人生は、天国を目指して右肩上がりです。そうでない人の人生は、年とともに希望のないものになります。

この章のポイント

1. 「80歳まで現役」を決意せよ。
2. 常に新しいことにチャレンジせよ。
3. 人格的ピークを目標とせよ。